渋沢栄一の漢詩 失題

作者

原文

失題

櫻花楊柳自依々
舍此春光誰與歸
遮莫雨風被相妬
亂吹紅雪半天飛

訓読

失題

桜花 楊柳 自ら依々たり
此の春光を舎てて誰とともにか歸らん
さもあらばあれ 雨風に相ひ妬まれて
亂りに紅雪を吹いて 半天に飛ばすは

題なし

桜の花も柳も自然とぼんやりして見える
このすばらしい春の風景を捨ててまでいったい誰と一緒に帰ろうと思うだろうか
美しすぎるために雨風に嫉妬されてしまい
無茶苦茶に吹かれた桜の花が赤い吹雪のように空中を飛んでいくのもそれはそれでかまいはしない

楊柳:楊はカワヤナギ、ネコヤナギ。柳はしばれやなぎ。
依々:頼りなくおぼつかないさま。ぼんやりと見えるさま。
:「捨」に同じ。捨て去る。
遮莫:「さもあらばあれ」とよみ、「~であってもかまいはしない」の意。
:受け身をあらわす。

餘論

起句の「依々」の意味は非常に幅が広いので、どう訳すか難しいのですが、とりあえず上のとおり「春霞の中で自然とぼんやりして見える」という意味に訳しておきました。