福澤諭吉の漢詩 社友小集

作者

原文

社友小集

光陰如矢十餘春
誰識當年風雨辛
今夜小堂相會友
彈丸煙裏讀書人

訓読

社友小集

光陰矢の如し 十余春
誰か識らん 当年 風雨の辛きを
今夜 小堂に相ひ会ふ友は
弾丸煙裏 書を読みし人

学友たちとの集まりで

月日は矢のごとくに過ぎ去ってあれから十余年
今となっては誰が知っているだろう、当時の辛い状況を
今夜、この部屋に集まった友はみな
あの頃、弾丸飛び交い、砲煙上がる中で勉学に励んだ仲間なのだ

社友:慶應義塾の門下生たち。慶應義塾では学生・教職員・卒業生を総称して社友、社中と呼ぶとのこと。
当年:当時。慶應4年、上野戦争(新政府軍と彰義隊の戦い)のただ中、砲弾の音が響き渡るなかで、福澤は動揺する塾生たちを励ましながらウェイランド『経済学原論』の授業を続けたという有名なエピソードの頃であろう。

餘論

困難な状況の中でも決して勉学を怠らなかったかつての教え子たちと、当時を懐かしむ詩ですが、ここから読みとれるのは単なる懐古の感情だけではありません。おそらく、この時集まった卒業生たちは近代化に邁進する当時の日本の最前線で大いに活躍していたはずです。自分がやってきたことが間違いなく実を結びつつあるという強い自負が感じられる詩です。