武市半平太の漢詩(1) 夢覺而得一絶(夢覚めて一絶を得たり)
作者
原文
夢覺而得一絶
夢上洛陽謀故人
終衝巨奸氣逾振
覺來浸汗恨無限
只聽隣鷄報早晨
訓読
夢覚めて一絶を得たり
夢に洛陽に上りて故人と謀り
終に巨奸を衝いて 氣 逾(いよいよ)振ふ
覚め来たれば汗に浸りて恨み限り無く
只だ聽く 隣鷄の早晨を報ずるを
訳
夢が覚めて絶句を一首つくった
夢の中で京の都に上り、仲間と作戦を練り
とうとう、巨悪を打ち破って、ますます意気揚々となった
夢から覚めてみれば、汗びっしょりで、現実でなかったことが恨めしく恨めしくて仕方がない
おりしも牢屋の近くにいるニワトリが朝を告げたが、私はそれを茫然と聞いているしかないのだ
注
洛陽:京の都。
故人:友人。亡くなった人ではない。
巨奸:「奸」はよこしま、ずるい、悪い、の意。「巨奸」は具体的には八月十八日の政変で尊王攘夷派を一掃して以降、京都の政治の実権を握った公武合体派である。
恨:誰かへの恨みというよりは、巨悪を倒したのが現実ではなく、夢でしかなかったことを恨めしく思う気持ちであろう。
餘論
山内容堂による土佐勤王党弾圧により逮捕、投獄されたのち、獄中での作です。起句(第1句)の「京都に上って仲間と謀った」というのは、ほんの数年前には現実であったことです。当時はまさに土佐勤王党の同志や長州の久坂玄瑞らという仲間とともに京都における尊王攘夷運動の中心として活動していたわけですが、今となっては獄中で見る夢の中でしか活躍できないという無力感と嘆きが伝わってくる詩です。
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