失題(渋沢栄一) / 失題

2016年6月24日金曜日

渋沢栄一


作者

原文

失題

櫻花楊柳自依々
舍此春光誰與歸
遮莫雨風被相妬
亂吹紅雪半天飛

訓読

失題

桜花 楊柳 自ら依々たり
此の春光を舎てて誰とともにか歸らん
さもあらばあれ 雨風に相ひ妬まれて
亂りに紅雪を吹いて 半天に飛ばすは

題なし

桜の花も柳も自然とぼんやりして見える
このすばらしい春の風景を捨ててまでいったい誰と一緒に帰ろうと思うだろうか
美しすぎるために雨風に嫉妬されてしまい
無茶苦茶に吹かれた桜の花が赤い吹雪のように空中を飛んでいくのもそれはそれでかまいはしない

楊柳:楊はカワヤナギ、ネコヤナギ。柳はしばれやなぎ。
依々:頼りなくおぼつかないさま。ぼんやりと見えるさま。
:「捨」に同じ。捨て去る。
遮莫:「さもあらばあれ」とよみ、「~であってもかまいはしない」の意。
:受け身をあらわす。

餘論

起句の「依々」の意味は非常に幅が広いので、どう訳すか難しいのですが、とりあえず上のとおり「春霞の中で自然とぼんやりして見える」という意味に訳しておきました。