高杉晋作の漢詩 發江戸(江戸を発す)

作者

原文

發江戸

千里周遊志未成
輕装朝發武藏城
品川驛上別離恨
付與天邊過雁聲

訓読

江戸を発す

千里の周遊 志未だ成らず
軽装 朝に発す 武蔵の城
品川駅上 別離の恨み
付与す 天辺過雁の声

江戸を出発する

千里にわたる周遊で、わが志はまだ成就しないまま
身軽ないでたちで朝から江戸の街を出発する
品川宿のあたり、江戸を離れるこの悲しみは
空をわたってゆく雁の声に託してどこかへやってしまおう

輕装:身軽ないでたち。もし、志を果たして功成り名遂げていれば、立派な身なりで故郷へ向かっているはずであるから、ここで「軽装」といっているのは、志を果たせぬままに江戸を去ることを象徴している。
武藏城:漢詩文での「城」は日本でいうところの城のみならず、街全体を指すことが多い。したがって、ここでいう「武藏城」というのは武蔵の国(現在の東京都+埼玉県)の中心都市である江戸の街のことである。
:旅人が馬を乗り換えるために用意された場所、宿場。当然のことだが、鉄道の駅ではない。

餘論

高杉晋作は安政5年(1858年)から万延元年(1860年)まで、藩命により江戸に遊学している。したがってこの詩は江戸遊学を切り上げ帰郷した万延元年11月のものであろう。この江戸遊学の間には、師の吉田松陰が安政の大獄でとらえられ、処刑されている。