福澤諭吉の漢詩(1) 題自著時事小言後(自著時事小言の後に題す)
作者
原文
題自著時事小言後
書窓揮汗稿方成
十萬言中無限情
定論唯期蓋棺後
是非今日任人評
訓読
自著時事小言の後に題す
書窓 汗を揮いて 稿 方(まさ)に成る
十萬言中 無限の情
定論 唯だ期す 棺を蓋ふの後
是非 今日 人の評するに任す
訳
自著「時事小言」を書き終えた後に詩を作る
書斎で汗をふるって書いた原稿が今まさにできあがった
この十万言の中に私の無限の思いがこめられている
この著作に対する評価が定まるのは私の死後になるだろうから
現時点でのよしあしについては、今の人々が批評するのに任せよう
注
時事小言:1881 (明治14)年出版。日本の独立維持と経済発展をはかるための内政・外交政策について論じた。
書窓:書斎の窓。
定論:人々に広く正しいと認められている議論。定説。
蓋棺:棺にふたをする。亡くなる。「晋書」劉毅伝に「丈夫蓋棺事方定(ひとかどの人物の真価は棺にふたをしたときになってはじめて定まるものであって、生きている間の毀誉褒貶は問題ではない)」とあるのを踏まえた成語。
是非:よしあし。よしあしについての判断
餘論
自著に対する強い自信がうかがえる詩です。がんばって良い詩を作ろうとして作った詩ではなく、その時の率直な思いを簡潔にまとめてみた、という感じの詩ですが、その中に「蓋棺事定」という故事成語をうまくとりこみ、起承転結の構成もしっかりしています。この時代の知識人は、標準レベルの絶句くらいはササッと作れたのでしょう。
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