吉田松陰の漢詩 辞世

作者

原文

辞世

吾今爲國死
死不負君親
悠々天地事
觀照在明神

訓読

辞世

吾 今 国の為に死す
死して君親に負(そむ)かず
悠々たり 天地の事
観照するは明神に在り

辞世の詩

私は今、国のために死ぬのだ
だから、この死は主君や親にそむくものではない
私の身がどうなろうと、天地の間の人間の営みはは悠々と尽きることなく続いていく
私が間違っていないということは、神がしっかりと見ていてくださる、それだけで十分だ

悠々:はるかに限りないさま
天地事:天地の間の人の世の事。
觀照:もと仏教語。智慧をもって世界の真理をみとおすこと
明神:明らかに見通すことのできる神

餘論

安政6(1859)年10月、伝馬町の獄舎内で処刑される際の辞世の詩です。松陰の辞世といえば「身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも留め置かまし大和魂」という歌が有名ですが、漢詩の方は全く知られていないので、紹介しました。ただ、転句(第3句)の解釈が容易ではなく、いろいろな説があるようです。「悠々」を憂えるさまと解釈する説もあるようです。