武市半平太の漢詩 偶成

作者

原文

偶成

花仍淸香愛
人以仁義榮
幽囚何可恥
只有赤心明

訓読

偶成

花は清香によって愛され
人は仁義を以って栄ゆ
幽囚も何ぞ恥づべき
只だ赤心の明らかなる有り

たまたま出来た詩

花はその清らかな香りによって愛され
人はその仁徳と正義によって栄えるものだ
だから私が今、牢屋に閉じ込められていることも何ら恥じることはない
私には何らやましいことはなく、ただ国を思うまごころがあるだけなのだ

偶成:たまたま出来た、なんとなく出来た、の意。
幽囚:とらえられて牢屋に閉じ込められること。
赤心:まごころ。誠意。

餘論

獄中での作品です。武市をはじめ土佐勤王党幹部の面々には、吉田東洋暗殺や京都での反対派暗殺の容疑がかけられていました。これらの暗殺に武市と土佐勤王党が関わっていたことは事実なのですが、武市は最後まで否認を貫きます。武市としては、数々の暗殺も尊王攘夷という正義を貫くための手段であるから、なんら間違ったことはしていない、ということだったのでしょうか。