大久保利通の漢詩 山口木戸氏新宅賦一詩呈主人(山口の木戸氏の新宅にて一詩を賦し主人に呈す)

作者

原文

山口木戸氏新宅賦一詩呈主人

風流本自屬君堂
名嶺入窓水繞廊
誰識幽情此裏味
老梅花上月明香

訓読

山口の木戸氏の新宅にて一詩を賦し主人に呈す

風流は本(もと)自ずから君が堂に属す
名嶺 窓に入り 水は廊を繞(めぐ)る
誰か識らん 幽情 此の裏(うち)に味はふを
老梅花上 月明 香る

山口の木戸孝允氏の新居で一首の詩を作り木戸氏に進呈した

風流はもとから、自然と君の家のものなのだ
名山が窓から見え、水が渡り廊下のまわりを流れている
誰が知っているだろう、静かな心情をこの素晴らしい邸宅の中で味わえることを
古い梅の木に咲いた花の上では月光が香っている

:ほそどの。わたどの。渡り廊下。
幽情:静かな心情
:うち。なか。
月明:月明かり。月光。

餘論

明治3年1月14日、大久保が長州に赴いた際に、木戸孝允の新居を訪ねて、新築祝いに詩を作り、木戸に贈ったものです。大久保と木戸は維新後、何度となく対立と協力を繰り返しながら、日本の近代化を進めていった盟友でありライバルでした。この詩の前年(明治2年)には兵制改革をめぐって両者は対立し、木戸は参議から外れていますが、この詩の翌年(明治4年)には両者が一致協力して廃藩置県を断行しています。

なお、「甲東詩歌集」では転句6字目を「中」に作りますが、それでは平仄に合いません。また結句の「月明」が「月痕」となっています。ここでは「大久保利通日記」に従い上記のとおりとしました。