松平春嶽の漢詩(3) 偶作
作者
原文
偶作
我無才略我無奇
常聽衆言從所宜
人事渾如天道妙
風雷晴雨豫難期
訓読
偶作
我に才略無く 我に奇無し
常に衆言を聴きて宜しき所に従ふ
人事は渾て天道の妙なるが如し
風雷 晴雨 予め期し難し
訳
たまたま出来た詩
私には才智や計略がなく、特にすぐれているところもない
だからいつも、家臣みんなの意見に耳を傾けて、適切と思うものに従っている
そもそも、人の世の物事はすべて天のめぐりのように不思議なもので
風か雷か晴れか雨か、予期することは難しいのだ(だから私ひとりだけの力で対応することなど出来はしないのだ)
注
才略:才智と計略。
奇:すぐれている。ぬきんでている。
衆言:多くの人の言葉
渾:すべて
天道:天の道理、天のさだめ、天の運行
妙:人知で計り知れない不思議さ、奥深さがある
豫:あらかじめ、前もって
餘論
リーダーに求められる資質のひとつとして、他人の意見に耳を傾け、すぐれた意見は取り上げて実行に移す力が挙げられます。もちろん場合によっては他の人がなんと言おうと自分の信念を貫くことも必要になるでしょうが、どんなに優秀な人でも組織が直面する課題すべてに独力で対応することなどできないので、有能なブレーンを見出してそばに置き、彼らの能力を存分に活用することが組織の運営には不可欠です。この点に関しては、春嶽は非常にすぐれた資質をそなえていました。橋本左内や中根雪江などを登用し、彼らの優れた見識を藩政に活かしながら幕末の困難な時局に立ち向かっていきました。この詩は、まさに春嶽らしいリーダー論を説いた作品といえます。
コメント
0 件のコメント :
コメントを投稿