陸奥宗光の漢詩(3) 獄中讀史(獄中に史を読む)
作者
原文
獄中讀史
夜深偶對歐州史
興廢輸贏似奕棋
雨撲山窗燈影暗
讀來邏罵滅亡時
訓読
獄中に史を読む
夜深くして偶(たまたま)対す 欧州史
興廃 輸贏 奕棋に似たり
雨 山窓を撲ちて灯影暗し
読み来たる 邏罵(ローマ)滅亡の時
訳
獄中で歴史書を読む
夜もふけてからたまたまヨーロッパ史の本に向かうと
諸国の興亡、勝敗はまるで碁のようなものだ
雨が牢獄の窓に打ちつけ、ろうそくの火が暗くなる
おりしもローマ帝国滅亡の時代まで読み進もうとするところだ
注
興廢:さかんになることと衰えること
輸贏:負けることと勝つこと。勝敗。
奕棋:碁。碁を打つこと。
邏罵:ローマ帝国。羅馬に同じ。
滅亡:ローマ帝国は395年に東西に分裂、西ローマ帝国は476年に滅亡し、東ローマ帝国(ビザンツ帝国)は中世を生き延びて1453年に滅亡するが、通常、「ローマ帝国の滅亡」といえば、前者を意味する。
餘論
陸奥は土佐立志社事件に関わったとして禁錮5年の刑を受け、明治11年9月から16年1月まで獄中にありました。獄中では読書と執筆に励み、英国の功利主義哲学者ベンサムの著作“Principles of Moral and Legislation”の訳書「利学正宗」や「福堂独語」「資治性理談」などを著しました。この詩も、獄中で西洋史の本を読んでいたときのことを描いたものです。
ローマ帝国滅亡のところまで読み進めた時にちょうど消えかかるろうそくの火は、どんなに強大な国であっても、時代の変化への対応と外交の舵取りを誤れば衰退し滅んでしまうという歴史の冷徹な現実をつきつけられた陸奥の心の中を象徴する情景描写です。
ローマ帝国滅亡のところまで読み進めた時にちょうど消えかかるろうそくの火は、どんなに強大な国であっても、時代の変化への対応と外交の舵取りを誤れば衰退し滅んでしまうという歴史の冷徹な現実をつきつけられた陸奥の心の中を象徴する情景描写です。
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