陸奥宗光の漢詩 失題

作者

原文

失題

朝誦暮吟十五年
飄身漂泊似難船
他時爭得生鵬翼
一擧排雲翔九天

訓読

失題

朝に誦し暮に吟ず 十五年
飄身 漂泊すること難船に似たり
他時 争(いか)でか得ん 鵬翼を生じ
一挙 雲を排して九天に翔けるを

題不明

朝も夜も歌をうたい詩を吟じて暮らすこと十五年
落ち着かない身であてもなくさまようさまは難破船のようだ
いつの日にか、大きな翼を手にして
一挙に雲を押しのけて空高く飛びまわりたい(志をとげて偉業をなしとげたい)ものだ

他時:将来、いつか。
爭得:どうやって~することができるだろうか、どうにかして~したいものだ
鵬翼:大鵬の翼
九天:「九重天」に同じ。天の最も高いところ。

餘論

陸奥宗光が数えで十五の年、故郷紀州をあとにし、江戸へ旅立つときの作と伝えられます。「朝誦暮吟」というと呑気に遊んで暮らしていたように感じてしまいますが、実際は父の失脚により少年時代の陸奥の生活は困窮を極めていました。「似難船」というのは実感だったでしょう。それまでの人生をリセットしたいという思いを込めるように、転句で調子は一転し、壮大な気宇を示します。後年の陸奥の活躍と功績はまさに鵬翼でもって九天を翔けるがごときものと言ってよく、十五の年に詩に詠んだ夢を彼は実現してみせたのです。