板垣退助 戊辰作(戊辰の作)

作者

原文

戊辰作

出師未曾汚天兵
一死只期竹帛名
彈子飛行亂如雨
喜見壯士躍登城

訓読

戊辰の作

出師 未だ曾て天兵を汚さず
一死 只だ期す 竹帛の名
弾子 飛び行きて 乱るること雨の如し
喜び見る 壮士の躍りて城に登るを

戊辰の年の作

出兵以降、いまだ天子の軍隊の名を汚したことはない
のぞむことはただひとつ、死して歴史に名を刻むこと
弾丸が雨のように乱れ飛ぶなかで
我が軍の血気盛んな兵士がいさんで敵の城へ攻め入っていくのを喜んで見るのだ

戊辰:干支のひとつ。干支は十干と十二支の組み合わせで年や日にちをあらわす。ここでいう戊辰の年は1868年(慶應4年/明治元年)のこと。この年、鳥羽・伏見の戦いを皮切りに戊辰戦争が開始される。板垣は戊辰戦争がおこると、迅衝隊総督として土佐藩兵を率いて高松・松山を無血で攻略して上洛、上洛後は東山道先鋒総督府参謀に任じられ東山道を進軍し、甲州勝沼の戦いで近藤勇率いる甲陽鎮撫隊を破り、さらに奥州へ進軍して会津若松城を攻略するなどの軍功をあげた。
出師:軍隊をくりだす
汚天兵:「天兵」は天子の軍隊。ここでは「天兵の名を汚す」の意にとったが、他の解釈もあり得るかもしれない。
竹帛:書物。紙の発明以前、竹の札や絹の布に文字を書いたことから。ここでは特に歴史書。
彈子:弾丸。
壮士:血気盛んな男

餘論

板垣退助は、自身で兵を率いて実際に戊辰戦争を戦っていたので、この詩には、木戸孝允の「戊辰作」や大久保利通の「戊辰作」にはない臨場感と高揚感があります。
なお、結句2字目は本来、平声であるべきなので、仄声の「見」でなく平声の「看」のほうがよいのではないかと思いますが、手元の本では「見」になっているので、それに従います。