西郷隆盛の漢詩 山行

作者

原文

山行

驅犬衝雲獨自攀
豪然長嘯斷峰閒
請看世上人心險
渉歷艱於山路艱

訓読

山行

犬を駆り雲を衝いて独り自ら攀じ
豪然として長嘯す 断峰の間
請ふ 看よ 世上の人心の険しきを
渉歴すること山路の艱(かた)きよりも艱し

山歩き

猟犬を駆りたて、雲の中を突き進んで、ただひとり自力で山をよじ登っていき
切り立った峰々の閒で、豪快な気分で声高らかに詩を吟じる
ところで、見てみたまえ、世間の人々の心の険しいこと
その中を渡っていくのは実はこうやって山道を行くよりもよっぽど困難なのだ

山行:山歩き
長嘯:もともと口をすぼめて息を長く吐くこと。転じて声を長く伸ばすようにして詩を吟ずること。
斷峰:切り立った峰
渉歴:わたり歩いていく

餘論

この詩を書いた隆盛自筆の書幅に、勝海舟が「庚午晩秋、先生、余が草堂を訪ひ、談笑揮毫、歓甚だし」と記していますが、庚午(1870年)には隆盛は一度も上京していないため、翌1871年の誤りらしく、したがって1871年以前の作とみられています。