武田信玄の漢詩 旅館聴鵑(旅館に鵑を聴く)

作者

原文

旅館聴鵑

空山緑樹雨晴辰
残月杜鵑呼夢頻
旅館一聲歸思切
天涯瞻恋蜀城春

訓読

旅館に鵑を聴く

空山の緑樹 雨 晴るる辰
残月の杜鵑 夢を呼ぶこと頻りなり
旅館の一声 帰思 切なり
天涯に瞻恋す 蜀城の春

旅館でホトトギスの声を聴く

人気のない静かな山の緑の木々に雨が晴れあがるころ
有明の月のもと、ホトトギスはまだ夢の中にいる私を呼ぶように頻りに鳴く
旅館で聞くホトトギスの鳴き声からは、帰りたいという切実な思いが感じられる
それは天の果てから遥かに蜀の都の春景色を恋い焦がれている声なのだ(その声を聞くと私も家に帰りたいという思いが募ってくる)

:とき
杜鵑:ホトトギス。周末の蜀の王杜宇(望帝)が国を失って亡くなった後、その魂がホトトギスに化し、「不如帰(帰るにしかず)」と鳴くようになったという。
瞻恋:遠くから望み見て恋い焦がれる

餘論

ホトトギスにまつわる基本的な典故を踏まえ、そこに自分自身の旅愁を重ね合わせた詩で、奇抜さはありませんが、きちんとした作りこまれた作品です。