伊達政宗の漢詩 中秋賞月於松島(中秋 月を松島に賞す)

作者

原文

中秋賞月於松島

今宵待月倚吟筇
滄海茫茫一氣濃
思見淸光佳興荐
道人緩打五更鐘

訓読

中秋 月を松島に賞す

今宵 月を待ちて 吟筇に倚れば
滄海 茫茫として一氣 濃やかなり
清光 佳興の荐を思ひ見て
道人 緩やかに打つ 五更の鐘

松島で中秋の月を観賞する

今宵、杖を手に月が出るのを待っているが
大海原はぼんやりとかすんで、一面に広がる霧が濃くたちこめている
清らかな月光のもとでの趣深い宴を思ってくれてのことか
寺の僧は夜明けの鐘をいつもよりゆっくりと打ってくれている

松島:日本三景のひとつ。和歌の世界では代表的な歌枕であり月の名所。
吟筇:詩人が吟行の際に携える杖。
滄海:大海原
茫茫:ひろびろとしたさま。ぼんやりしたさま。
佳興:すぐれた趣。
:しきむしろ。しきもの。ここでは宴席。
道人:俗世間をのがれた人。仏門に入った人。
五更鐘:夜明けを告げる鐘。結句は蘇軾《縦筆》「報道先生春睡美 道人輕打五更鐘(報道す先生の春睡の美なるを 道人軽く打つ五更の鐘)」を下敷きにしたもの。

餘論

寛永12(1635)年の作。松島は「待つ」の掛詞であり、霧に隠されてなかなか姿を見せない月を待つというのは松島にふさわしい、趣深い状況です。そのような日本の伝統的な美意識をうまく詠みこみつつ、後半は蘇軾の詩をふまえた内容でしめくくる、いわば和漢融合の詩であり、政宗の教養がうかがわれる作品です。