夏目漱石の漢詩 題自畫(自画に題す)

作者

原文

題自畫

厓臨碧水老松愚
路過危橋仄徑迂
佇立筇頭雲起處
半空遙見古浮圖

訓読

自画に題す

厓は碧水に臨んで 老松 愚なり
路は危橋を過ぎて 仄径 迂なり
佇立す 筇頭に雲起こる処
半空 遥かに見る 古浮図

自作の画に題する

崖はみどりの水に臨んでそびえ、そこには老いた松が愚直に生えていて
道は高くに架かる橋を通り、そこからさらに傾いた小道がまがりくねって続く
杖のそばから雲が湧きおこる場所でたたずむと
空の中ほどに遥か遠く、古い寺の塔が見える

:崖に同じ。
危橋:高くに架かる橋。
仄徑:傾いた小道
:まがりくねる。まわりくどい。
佇立:たたずむ
筇頭:筇はつえ。杖のそば。
半空:空の中ほど。
浮圖:寺の塔。あるいは寺。

餘論

漱石が自筆の画に書きつけた詩です。ご覧のとおり、詩のとおりの画、画のとおりの詩で、ともに過不足なく描かれていると思います。
漱石自筆の画。左上に今回の詩