直江兼続の漢詩 洛中作(洛中の作)

作者

原文

洛中作

獨在他郷憶舊遊
非琴非瑟自風流
團團影落湖邊月
天上人間一樣秋

訓読

洛中の作

独り他郷に在りて旧遊を憶へば
琴に非ず 瑟に非ず 自づから風流
団団 影は落つ 湖辺の月
天上 人間 一様の秋

洛中での作

独りで故郷を離れた都にいて、昔この地で遊んだことを思い出すと
琴や瑟の調べではない、自然に催される風流を感じる
まんまるの月が湖のほとりに光を落とし
天上も人の世も一様に秋一色だ

他郷:故郷を離れた土地。異郷に同じ。王維《九月九日憶山東兄弟》「獨在異郷爲異客、每逢佳節倍思親」
:琴に似て琴より大型の弦楽器。弦は25本。白居易《雲和》「非琴非瑟亦非箏、撥柱推弦調未成」
團團:まんまるなさま。梁・何遜《日夕望江山贈魚司馬》「的的帆向浦、團團月映洲」
:ここでは光の意味。
人間:人の世。この世。白居易《長恨歌》「但教心似金鈿堅、天上人間会相見」

餘論

元和5(1619)年、最晩年の作。この年の5~9月、主君上杉景勝は徳川秀忠に従って上洛しており、兼続もこれに同行しています。このあと、兼続は江戸へ下り、12月に江戸鱗屋敷で亡くなっています。いろいろな先人の作品から有名な詩句を取り込みながら全体としてまとまった作品に仕上げています。剽窃といえば剽窃といえなくもありませんが、むしろ読者に対して「この句のもとになっている詩、わかるかな?」と問いかけるような遊び心と見るべきでしょう。