題自畫(夏目漱石) / 自画に題す

2016年8月7日日曜日

夏目漱石


作者

原文

題自畫

山上有山路不通
柳陰多柳水西東
扁舟盡日孤村岸
幾度鵞群訪釣翁

訓読

自画に題す

山上に山有りて 路 通ぜず
柳陰に柳多くして 水 西東
扁舟 尽日 孤村の岸
幾度か鵞群 釣翁を訪ふ

自作の画に詩をつける

山の上にさらに山があって、その向こうまでは道が通じていない
柳の陰にはさらに柳が茂り、川が西へ東へ流れている
小さな舟が一日中、街から遠くぽつんと離れた村の川岸につないだままになっていて
そこで釣りをしている老人のもとへ、ガチョウの群れが何度か訪れてくる

山上有山:「山」という字の上にもうひとつ「山」の字を書くと「出」の字になることから、「山上有山」という句は「出」という字の隠語として用いられる。ここでも「ここから出ていくための道は通じていない」という意味を含んでいると思われる。(『玉台新詠』「古絶句」に「山上復有山」)
扁舟:小舟
尽日:一日中
鵞群:ガチョウの群れ

餘論

大正元年11月。自作の山水画に題した詩。画中の詩では、結句は「幾度鵞群到渡頭」の下三字に傍点を付して「訪釣翁」に改めています。もとの案では人間が全く登場しませんが、改作では最後に年老いた釣り人をひとりだけ登場させることで、逆にこの景色ののどかさ、しずけさが強調されています。

漱石自筆の画。左上に今回の詩