夏目漱石の漢詩(2) 題自畫(自画に題す)
作者
原文
題自畫
山上有山路不通
柳陰多柳水西東
扁舟盡日孤村岸
幾度鵞群訪釣翁
訓読
自画に題す
山上に山有りて 路 通ぜず
柳陰に柳多くして 水 西東
扁舟 尽日 孤村の岸
幾度か鵞群 釣翁を訪ふ
訳
自作の画に詩をつける
山の上にさらに山があって、その向こうまでは道が通じていない
柳の陰にはさらに柳が茂り、川が西へ東へ流れている
小さな舟が一日中、街から遠くぽつんと離れた村の川岸につないだままになっていて
そこで釣りをしている老人のもとへ、ガチョウの群れが何度か訪れてくる
注
山上有山:「山」という字の上にもうひとつ「山」の字を書くと「出」の字になることから、「山上有山」という句は「出」という字の隠語として用いられる。ここでも「ここから出ていくための道は通じていない」という意味を含んでいると思われる。(『玉台新詠』「古絶句」に「山上復有山」)
扁舟:小舟
尽日:一日中
鵞群:ガチョウの群れ
餘論
大正元年11月。自作の山水画に題した詩。画中の詩では、結句は「幾度鵞群到渡頭」の下三字に傍点を付して「訪釣翁」に改めています。もとの案では人間が全く登場しませんが、改作では最後に年老いた釣り人をひとりだけ登場させることで、逆にこの景色ののどかさ、しずけさが強調されています。
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漱石自筆の画。左上に今回の詩 |
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