作者

原文

夢我京洛友

向東北去行路難
遙隔古郷淚不乾
我夢朋友高枕上
破窓一宿短衣寒

訓読

我が京洛の友を夢みる

東北に向かひ去って行路難し
遥かに古郷に隔たって涙 乾かず
我 朋友を夢みる 高枕の上
破窓一宿 短衣寒し

京都の友人を夢にみる

東北の奥羽へ向かって旅立ったがその行く手は険しい
はるかに故郷から遠ざかり、悲しみの涙が乾くことはない
ひとりの夜、枕の上で夢にみるのは都の友人たちとの楽しい思い出
だが現実は窓も破れた宿に泊まり、粗末な服で寒さにふるえているのだ

京洛:京の都
向東北去:慶長6(1601)年、前田慶次は京都を出発し、上杉景勝が移封された米沢へ向かった。
短衣:質素で粗末な服

餘論

「花の慶次」で有名な前田慶次の漢詩です。関ヶ原の役の前に上杉景勝の臣となった慶次は、役後、敗者となった上杉家が大幅に減封となって米沢に移された後もこれに従い、米沢で晩年を過ごしたとされます。慶長6年に京都から米沢へ向かって旅した際には、その道中の風俗などを紹介した「前田慶次道中日記」を残しており、その中にこの漢詩が記されています。前田家を出奔して浪人となって以降、京都で数多くの文人と交流したことが知られており、「京洛友」とはそれらの人たちのことなのでしょう。