新井白石 新竹

作者

原文

新竹

尺五龍孫頭角森
白雲長護碧千尋
夜窗彷彿聽風雨
好爲君王作旱霖

訓読

新竹

尺五の龍孫 頭角 森たり
白雲 長(とこし)へに護らん 碧千尋
夜窓 彷彿たり 風雨を聴くに
好し君王の為に旱霖を作(な)せ

若竹

わずか一尺五寸のタケノコでも、そのてっぺんにはすでに青々と葉が出ており
いずれは成長して千尋もの長さの青い竹となって空まで伸び、白雲が常に取り巻いて守ることになるだろう
夜の窓から聞こえてくる葉音はまるで風雨の音を聞くかのようだ
さあ、君主のために日照りを救う恵みの雨を降らしてくれ

尺五:一尺五寸。短いことの形容。
龍孫:タケノコ。費長房がまたがって持ち帰った竹が竜に変わったという故事(後漢書・方術傳)から。
頭角:頭の先。
:樹木などが茂るさま。
:とこしえに。永久に。常に。
碧千尋:「碧」は竹の青い幹を指し、「千尋」は非常に長いことの形容。
彷彿:似ているさま。さながら。
:さあ、~しよう。~せよ。
旱霖:日照りを救う恵みの雨

餘論

浪人時代の白石が詠んだタケノコの詩です。当時の白石の状況を考えれば、詩中のタケノコに自分自身を重ね合わせていることは容易に想像がつきます。今はまだ浪々の身でタケノコにすぎないが、いつかは天に届くほどの竹に育ち、すぐれた君主に仕えて恵みの雨のようなよい政治をおこなってみせようというわけです。そして、後年、実際に、将軍家宣という「君王」に仕えて幕政を動かし、「正徳の治」をおこなったのですから、まさに有言実行といえるでしょう。もちろん、「正徳の治」が真の善政だったかどうかについては、様々な意見があるでしょう。