西郷隆盛の漢詩 春夜

作者

原文

春夜

三宵連雨暗愁生
懶問園林千樹櫻
春夜乘晴閑試歩
落花枝上亂鳴鶯

訓読

春夜

三宵の連雨 暗愁 生ず
問ふに懶(ものう)し 園林 千樹の桜
春夜 晴れに乗じて閑かに歩を試みれば
落花枝上 鳴鶯乱る

春の夜

三日三晩雨が降り続くと、人知れぬ愁いが心に生まれ
庭園の林の千本の桜を訪ねていくのも面倒になる
しかし、ある夜、晴れ上がったのを機に、しずかに散歩してみると
花を散らす枝の上で、ウグイスがさえずりながら乱れ飛んでいた

連雨:しきりに降り続く雨
暗愁:人知れぬ愁い
亂鳴鶯:主語は「鳴鶯」、「亂」が述語(動詞)。倒置により述語の「亂」が前に来ている。

餘論

桜の花の盛りにあいにくの雨が続き、ようやく晴れあがった夜、たずねていってみると、すでに盛りはすぎ、さかんに花を散らしている枝の上でウグイスがさえずりながら飛びまわっていた、という詩です。内容にもの珍しい点はありませんが、それだけに事実に即した詩なのだろうと思います。夜の花吹雪の中でひとりたたずむ西郷を想像すると、おもむき深いものがあります。

国事に奔走しつづけた西郷ですから、詩中の「暗愁」はあるいは、雨のせいばかりではなかったかもしれませんが、この散歩で多少は愁いを晴らすことができたのでしょうか。