大塩平八郎の漢詩 登富士山 其二(富士山に登る 其の二)

作者

原文

登富士山

千年雪映千年月
況復紅輪未曉昇
下界祇今猶夢寐
枕頭暗暗五更燈

訓読

富士山に登る 其の二

千年の雪は映ず 千年の月
況んや復た紅輪の未だ暁けて昇らざるをや
下界 祇だ今 猶ほ夢寐にして
枕頭 暗暗たらん 五更の灯

富士山に登る

千年のあいだとけることのない雪が千年変わることない月に輝く
夜が明けて太陽が昇ってくる前では、その美しさはなおさらだ
下界では今はまだ夢のただ中
枕元には未明の灯火が暗くともっていることだろう

況復~:まして~はなおさらだ
夢寐:夢を見ている間。寝ている間。
枕頭:「頭」は「~のそば、~のあたり」の意。枕元。
暗暗:くらいさま
五更:午前4時ころ

餘論

天保4年7月17日(1833年8月31日)、大塩先生はみずから富士山に登り、4月に書き終えた自著『洗心洞剳記』を山頂の石室に納めました。その時に詠んだ詩二首のうちの一首です。読書録の形式で「知行合一」を説いた自著を霊峰の山頂に納め、静かに眠る下界を見下ろしながら、どんなことを思ったのでしょう。この年の秋は冷害と台風で米の収穫が激減し、天保の大飢饉が始まります。大塩先生挙兵の4年前のことです。