西郷隆盛の漢詩 孔雀

作者

原文

孔雀

金尾花冠一綠衣
産來南越遠高飛
從爲天覽放樊籠
畫出銀屛羽亦揮

訓読

孔雀

金尾 花冠 一緑衣
南越に産し来たりて遠く高飛す
天覧を為(な)さんと樊籠を放たれしより
銀屏に画き出だされて羽も亦た揮ふ

クジャク

黄金色の尾、花のようなトサカに緑色の体
ベトナムに生まれ落ち、遠い日本まで高々と飛んできた
帝にご覧いただこうと狭い鳥かごから解放されてからは
銀色の屏風に描かれながら飾り羽を広げている

孔雀:クジャク。詩中にベトナムから来たとあるので、東南アジアに分布するマクジャクであろう。
花冠:美しい冠。ここではクジャクの頭部の飾り羽のこと。
綠衣:緑色の衣服。クジャクの体をたとえたもの。マクジャクは体部に光沢のあるエメラルド色の羽毛を持つ。
南越:ベトナム。
高飛:高々と飛ぶ。実際には当然、人の手で運ばれてきたのだが、詩のレトリック上、「高々と飛んできた」と表現したもの。
:「なす(実施する、おこなう)」と読む場合は平声、「ために」と読む場合は仄声になる。規則上、ここは平声でなければならないため、前者を採用し「天覧を実施する」の意に解した。ただ、西郷が平仄を勘違いし、「天覧のために」の意で作詩した可能性を否定はできない。
天覽:天子がご覧になること
樊籠:鳥かご。
羽亦揮:「揮」はふりまわす、揺り動かす、羽をふるって飛ぶ、などを意味するが、ここでは飾り羽を広げている様をいうのであろう。

餘論

クジャクの原産地は中国南部・ベトナム・マレー(マクジャク)やインド(インドクジャク)で、日本にはもともと分布していませんが、古くは推古天皇6年(598年)に新羅からクジャクが贈られたという記録が残っており、安土桃山時代には南蛮人の手で持ち込まれたようです。江戸時代には大阪に「孔雀茶屋」というクジャクを観賞できることを売りにした茶店が存在していました。この詩が詠まれた正確な時期はよくわかりませんが、まだまだクジャクが珍しかった時代であったことは確かです。現在では、各所でクジャクが野生化し、動物園で飼育しているところも多いでしょうから、昔ほど珍しくはありませんが、多くの人にとって日常的に見られる鳥ではないので、西郷がこの詩にこめた感動には共感できるのではないでしょうか。