避暑(西郷隆盛) / 暑を避く

2017年7月23日日曜日

西郷隆盛


作者

原文

避暑

苛雲圍屋汗沾衣
白鳥飢來吮血肥
逃暑移牀臨澗水
曳笻搖扇歩苔磯
斉鳴蛙鼓田疇沸
亂點螢燈草露輝
幽味最甘松樹下
爽風閑月渡崔嵬

訓読

暑を避く

苛雲 屋を囲んで 汗 衣を沾(うるほ)す
白鳥 飢え来たって 血を吮ひて肥ゆ
暑を逃れ牀を移して澗水に臨み
笻を曳き扇を揺らして苔磯に歩む
斉鳴する蛙鼓 田疇に沸き
乱点する蛍灯 草露に輝く
幽味 最も甘し 松樹の下
爽風 閑月 崔嵬を渡る

暑さを避ける

炎天の入道雲が家を囲んで、汗で服はびしょびしょに濡れ
飢えた蚊がやってきて私の血を吸って肥え太る
暑さを避けようと腰かけを移して谷川に向き合い
杖をつき扇子であおぎながら苔むした河原を散歩する
声をそろえて鳴くカエルは田畑に沸きたち
あちこち秩序なく光るホタルは露に濡れる草のなかで輝いている
このような奥深い味わいを最も堪能できるのは松の木の下だ
爽やかな風とのどかな月がその高くそびえる梢を渡ってくるのだから

苛雲:苛酷な炎天の雲。
白鳥:蚊の異称。杜牧《題揚州善智寺》「靑苔滿階砌 白鳥故遲留」
:吸う
:寝台、またこしかけ。
澗水:谷川の水。
:杖。
苔磯:苔むした河原
斉鳴:声を揃えて鳴く
蛙鼓:蛙の鳴き声
田疇:田畑
亂點:秩序なくあちこちにともる
螢燈:ホタルの光
幽味:奥深い味わい
崔嵬:山が高くけわしいさま。転じて樹が高くそびえるさま。杜甫《古柏行》「崔嵬枝幹郊原古 窈窕丹青戸牖空」

餘論

あまりの暑さに汗だくになり、おまけに蚊にも刺されまくりながら、猛暑の中に涼を求める姿を自ら詠んだ西郷隆盛の律詩です。谷川のせせらぎや田んぼのカエルの鳴き声、くさむらに光るホタル、高い松の梢を吹きわたる風に涼を得ることができた古きよき時代が描かれています。残念ながら、現代の都市部の異次元の酷暑では参考にはなりません。熱中症を避けるため、ためらわずクーラーを使用したほうがいいでしょう。