武田信玄の漢詩 新綠(新緑)

作者

原文

新綠

春去夏來新樹邊
綠陰深處此留連
尋常性癖耽閑談
不愛黄鶯聽杜鵑

訓読

新緑

春去り夏来たる 新樹の辺
緑陰深き処 此に留連す
尋常の性癖 閑談に耽る
黄鶯を愛さず 杜鵑を聴く

新緑

春が去り夏が来たのは新緑の樹のあたり
緑陰の深いところに身を寄せていると、去るに忍びず、ぐずぐずとどまってしまう
普段からの性癖で心静かに語り合うのが好きな私であるから
ウグイスの楽しげな囀りは好きではなく、静寂の中に響く悲しげなホトトギスの声のほうに耳を傾けるのだ

留連:去るに忍びず、ぐずぐずしているさま
尋常:普通の、普段の。
閑談:心静かに語り合う。
杜鵑:ホトトギス。周末の蜀の王、杜宇(望帝)が国を失って亡くなった後、その魂がホトトギスに化し、「不如帰(帰るにしかず)」と鳴くようになったという伝説がある。

餘論

いつもながら、戦国最強軍団を率いた武将の詩とは思えぬ、おだやかな作品です。転句から結句へのつながりはちょっと難しいのですが、上記のとおり訳しておきました。ただ、信玄のことですから、ひょっとしたら何かマイナーな故事を踏まえているのかもしれません。