西郷隆盛の漢詩 偶成

作者

原文

偶成

我家松籟洗塵縁
滿耳淸風身欲仙
謬作京華名利客
斯聲不聞已三年

訓読

偶成

我が家の松籟 塵縁を洗ふ
満耳の清風 身は仙ならんと欲す
謬って作(な)る 京華 名利の客
斯の声 聞かざること已に三年

たまたま出来た詩

故郷の我が家の松風の響きは俗世間のしがらみを洗い流してくれる
耳いっぱいに響く清らかな風のおかげで、この身も仙人になれそうだ
道をあやまって、にぎやかな都で名声や利益を求める人間になってしまったおかげで
このすがすがしい松風の音色を三年も聞くことができなかったのだ

松籟:松風の響き
塵縁:俗世間の塵にまみれた縁。
京華:華やかな都。
名利:名誉や利益。
斯聲:「我家松籟」を指す。
已三年:明治4(1871)年2月に御親兵となる薩摩兵を率いて上京(⇒「送藩兵爲天子親兵赴闕下」を参照)して以来、征韓論に敗れて鹿児島へ戻った明治6(1873)年11月まで、およそ3年間。

餘論

征韓論に端を発した明治六年の政変で政府を去り、鹿児島に帰郷した際の感慨を述べた詩です。政争に敗れた悔しさなどは微塵も感じられず(実際、そのような感情は西郷にはなかったと思われますが)、自由の身となった解放感のみが感じられる作品です。