武田信玄の漢詩(1) 新正口號(新正口号)
作者
原文
新正口號
淑氣未融春尚遅
霜辛雪苦豈言詩
此情愧被東風笑
吟斷江南梅一枝
訓読
新正口号
淑気 未だ融けず 春 尚ほ遅し
霜辛 雪苦 豈に詩を言はんや
此情 愧づらくは東風に笑はれんことを
吟断せん 江南の梅一枝
訳
新春正月に口ずさんでできた詩
おごそかな雰囲気はまだゆるまず、春が来るのがまだ遅れている
霜や雪に苦しめられているなかでどうして詩を作る気になどなるだろう
しかしこんな気持ちでいると春風に笑われてしまう、それは愧ずべきことだ
ここは気持ちをあらたに、六朝の陸凱が「江南の梅を一枝贈ろう」と詠じたのにならって一枝の梅を詠むこととしよう
注
新正:新年の正月
口號:口ずさむ。また、気軽に口ずさんでできた詩。
吟断:「断」は動詞のあとについて意味を強調する。
江南梅一枝:陸凱《贈范曄》「折梅逢駅使 寄与隴頭人 江南無有所 聊贈一枝春」を踏まえたものか。
餘論
作詩の練習で題を与えられて作ったというような印象を受ける無難な詩ですが、起承転結も平仄押韻もうまくまとまっています。後の幕末の志士たちが自らの思いをこめた詩のような自在さはありませんが、まだ漢詩を作れる武士自体がまだまだ少なかった時代に、一応きちんと形のととのった詩を作れたというだけでも評価すべきでしょう。
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