大塩平八郎の漢詩 五更出郭蛙聲喧(五更 郭を出づれば蛙声 喧し)

作者

原文

五更出郭蛙聲喧

稲田千頃水如川
聒聒蛙聲欲動天
天天縦似雷鳴響
潭底龍蛇蟄尚眠

訓読

五更 郭を出づれば蛙声 喧(かまびす)し

稲田 千頃 水 川の如し
聒聒たる蛙声 天を動かさんと欲す
天天 縦(たと)ひ雷鳴の響くに似るも
潭底の龍蛇 蟄(かく)れて尚ほ眠る

夜明け前、街から出ればカエルの声がやかましい

田んぼがはるか遠くまで広がって、水面はまるで川のようで
やかましいカエルの鳴き声は天を揺り動かそうとするほどだ
たとえ毎日毎日、雷鳴が響くようにうるさくても
淵の底に沈む龍や蛇は隠れたまま、まだ眠っているのだ

五更:一夜を五つに区分したうちの五番目。午前4時の前後2時間(午前4時からの2時間とも)。
:くるわ。都市のまわりを囲む壁。城郭。
千頃:非常に広いこと。頃は面積の単位で、一頃は百畝。
聒聒:やかましいさま。
天天:口語で日々、毎日。
潭底:淵の底。
:かくれる。とじこもる。

餘論

大塩先生は早朝5時から門弟に講義をしていたそうですが、この日は、どうやらその講義の前に街の外まで散歩に出かけたようです。そこで田んぼが広がりカエルが盛んに鳴いているのを聞いて詠んだのがこの詩です。これだけうるさくカエルが鳴いていれば、水底にひそむ龍が目を覚ましてもよさそうなのに、いっこうに目を覚まさず、カエルのしたい放題にさせている、という内容からすると、やはり寓意がありそうです。わが世の春とばかりにやかましく鳴いている蛙は、不正にまみれた役人や不当に利益を貪る豪商たちでしょうか。そして、そんな蛙たちを駆逐すべき「龍蛇」はまだ現れない、と嘆いています。カエルの鳴き声を聞いただけで世を嘆き、憤る大塩先生は、この後おそらく授業に臨んだのでしょうが、きっといつにも増して厳しい授業になったに違いありません。