作者

原文

内山峽 其二

盤旋書劔天涯賓
程到襄州初苦辛
愁殺山巓回首處
一歩又爲信路人

訓読

内山峡 其の二

盤旋す 書剣 天涯の賓
程 襄州に到りて初めて苦辛す
愁殺す 山巓に首を回らす處
一歩 又た為る 信路の人

内山峡 その二

書物と剣をたずさえて故郷を遠く離れた旅人としてあちこちを巡り歩いているが
旅路が上州の山道に差し掛かってはじめて苦しんでいる
山頂でここまでの道のりを振り返ってみるとひどく悲しい思いがこみ上げてくる
ここから一歩踏み出せば、またあらたに信濃路の旅人となるのだ

内山峽:内山峡(渋沢栄一)」を参照
盤旋:ぐるぐるまわる。巡り歩く。さまよう。
書劔:書物と剣。士大夫が常に携帯しておくべきものの代表。そのため、旅や異郷での暮らしを詠む際の小道具として使われやすい。 許渾《別劉秀才》「三獻無功玉有瑕 更攜書劍客天涯」 馬定國《清平道中》「今日清明過寒食 又將書劍客他郷」
天涯:天の果て。故郷や家を遠く離れたところ。
賓:客。まろうど。
襄州:上州(上野:現在の群馬県)のことであろう。詳しくは「内山峡(渋沢栄一)」の注の「襄山」の項を参照。
愁殺:「殺」は強調のために動詞に添える助字。通常、他動詞として、非常に愁い悲しませる、という意味だが、ここは自動詞と取るべきなのだろう。 《文選・古詩十九首 其十四》「白楊多悲風 蕭蕭愁殺人」
回首:こうべをめぐらす。振り返って後ろを見る、過去を振り返る。
信路:信濃(長野県)の路。

餘論

2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」のタイトルの由来になった長篇古詩と同時に作られた七言絶句です。

起句をどう読み下すべきか、かなり悩みますが、「書劔」の注の用例(「更に書剣を携へて天涯に客たり」「又た書剣を将って他郷に客たり」)のとおり、書剣が旅人の小道具であることを考慮すると、こう読むしかないのかなと思います。

また、起句は下三字(天涯賓)がすべて平声になっており、「下三連」の禁忌を犯してしまっています。凡ミスなのでしょうが、ここは「天涯客」にして起句を踏み落としにしてしまったほうがいいのではないでしょうか。