伊達政宗の漢詩(9) 元旦試觚(元旦 觚を試みる)
作者
原文
元旦試觚
時物春來催我吟
詩情酒渴共何禁
屠蘇沈醉忘才拙
和答黄鸝新語音
訓読
元旦試觚
時物 春来たりて 我が吟を催す
詩情 酒渇 共に何ぞ禁ぜんや
屠蘇 沈酔して 才の拙きを忘れ
和して答ふ 黄鸝 新語の音
訳
元旦に詩を作ってみた
春がめぐってきて時節の景物が私に詩を詠めとうながしてくる
こうなると詩情がわいてくることも、のどが渇くまで酒を飲むことも、ともに抑えようがない
お屠蘇で酔っぱらって自分の才能が乏しいことも忘れてしまい
鳴き始めたウグイスの美しい鳴き声に合わせて詩を作るのだ
注
試觚:試しに詩文を作る。「觚」は文字をしるすのに用いた四角い木の札のこと。「操觚(觚を操る)」で文章を作ることを意味する。
時物:時節の景物
催:うながす。せきたてる。
酒渴:酒を飲んでのどがかわくこと。
禁:とどめる、たえる、おさえる、の意のときは平声。忌みさける、禁止するなどの意のときは仄声。ここは平声なので前者の意。
屠蘇:山椒などを混ぜた薬で、元旦に息災を願って酒に入れて飲む。また、その薬を入れた酒も指す。
沈醉:ひどく酔う。酔いつぶれる。
和:調子を合わせる、応じる、こたえる。他人の詩と同じ韻目で押韻して詩を作ることも「和す」という(和韻)。
黄鸝:厳密にはコウライウグイスという全身黄色の鳥のことだが、日本の漢詩ではウグイスを表すのに用いる。
餘論
旧暦の新年は太陽暦の早春にあたるので、地域によっては梅が咲き始め、ウグイスが鳴き始める時期ですが、さすがに仙台ではまだでしょう。しかし漢詩の世界ではそういう設定になっているもので、この詩もそれにきちんと従って作られています。表現にこなれない部分があり、流れの悪いところもありますが、全体としては詩題に沿った内容にまとめてあります。
胸にせまる熱い思いが込められた詩ではなく、元旦という設定にのっとってとりあえず作ってみた詩なのでしょうが、それだけに、政宗の作詩の力量が一定のレベルに達していたことを示しています。もちろん、江戸後期の詩人たちの見事な詩には遥かに及びませんが、政宗の生きていた当時、武家で政宗と同等以上のレベルに達していた人は、文字通り数えるほどしかいなかったはずです。
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